病的共同運動はなぜ起こる?原因と治療の考え方
「口を動かすと目が閉じる」それは病的共同運動かもしれません
「口を動かすと、目まで一緒に閉じる」
「笑おうとすると、首までつっぱる感じがする」
顔面神経麻痺が回復してきた頃や、麻痺を発症してから年単位の時間が経った方はこのような症状に悩まれることが少なくありません。
これは病的共同運動(びょうてききょうどううんどう)と呼ばれる、顔面神経麻痺の後遺症のひとつです。
そら鍼灸院でも「後遺症がつらい。どうにかならないか?」とご相談いただく患者さんが少なくありません。
病的共同運動とは?
病的共同運動とは、本来は別々に動くはずの筋肉が一緒に動いてしまう状態です。
例えば、
・口を動かすと目が閉じる
・目を閉じると口元が引っ張られる
・笑うと首に力が入る
といった症状がみられます。
「麻痺が残っている時期に顔を動かしたため、筋肉の付き方がアンバランスになってしまったのでは?」
このような不安を抱き、「日常生活でも表情をなるべく作らない方がいいのか?」というご質問をいただくこともあります。
しかし、病的共同運動は筋肉の付き方の問題ではなく、神経のつながり方の問題です。
傷ついた神経が回復する過程で、本来とは異なる筋肉にも神経がつながってしまうこと(異常再支配)が主な原因と考えられています。

ですから、「日常生活において顔を動かしたから病的共同運動になってしまった」と単純に考えることはできないと言えます。
一方で、回復段階に合わない、自己流の強い顔の運動は勧められていません。
例えば、力いっぱい「イー」「ウー」を繰り返したり、目をぎゅっと強く閉じる練習や、大きく笑う練習を何度も繰り返したりするような運動です。(イメージは”顔の筋トレ”です)
このようにやることで「筋肉がついて動き出す」というイメージから取り組まれるケースがありますが、病的共同運動を目立たせたり、適切な表情の動きを妨げたりする可能性があるため、現在は勧められていません。
つまり、その時期に合ったリハビリを行うことが、病的共同運動と上手に付き合っていくうえで大切になります。
治療の目的は「神経を元に戻すこと」ではありません
病的共同運動は、神経のつながり方が本来のものとは異なる形になってしまったために起こる後遺症です。
現在の医学では、その神経のつながりそのものを元の状態へ戻すことは容易ではないと考えられています。
そのため現在、医療機関で行われている治療では、神経のつながりそのものを元に戻すことよりも、症状を軽減し、日常生活で困る場面を減らすことが目標になり得ます。
医療機関では症状に応じて次のような治療が行われています。
・リハビリ
・ボツリヌス療法(ボトックス)
・形成外科的手術
いずれも神経のつながり自体を元に戻す治療ではなく、それぞれ異なる方法で症状の改善を目指すものだと言えます。

そら鍼灸院の考え方
そら鍼灸院では顔面神経麻痺に対して「根本治療」や「治ります」といった言葉を安易に使うことはありません。
その理由は、現在の診療ガイドラインや医学的知見では、鍼治療によって神経の異常なつながりそのものを元に戻せることを示す十分な根拠がまだないためです。
一方で、病的共同運動によって生じる、
・顔のこわばり
・動かしにくさ
・首やあごの緊張
・重だるさ
といった症状に対しては、鍼治療によって症状の軽減が期待できる場合があります。
だからと言って「治すことはできないのであれば、鍼治療を受ける意味はない」と、考えてしまうのも少し違うと考えています。
病的共同運動そのものを元に戻すことは難しくても、顔のこわばりや動かしにくさ、首やあごの緊張、重だるさなど、日常生活で感じるつらさを和らげるために、鍼治療がお役に立てる可能性があるからです。
「治るか、治らないか」という二択ではなく、「今より少しでも生活しやすくするために何ができるか」を一緒に考えていくことが大切だと考えています。
そのため、現在わかっている医学的知見の中で患者さんのお力になれることについては、鍼治療だけではなく、顔面神経麻痺のリハビリも取り入れながら最善を尽くしたいと考えています。
最後に
病的共同運動は、顔面神経麻痺になった多くの方が悩まされている後遺症の一つです。
まず必要なのは、病的共同運動が「筋肉の問題」ではなく、「神経のつながり方の変化によって起こる後遺症」であることを正しく理解することです。
そのうえで、ご自身の状態に合った治療やリハビリを選択していくことが大切だと考えています。
その時々の状態に合わせて、「今できること」を一緒に考えながら、一歩ずつ前に進んでいけるようお手伝いできればと思っています。
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