顔面神経麻痺にEMS美顔器は使っていい?「電気で表情筋を鍛える」に注意が必要な理由

「顔面神経麻痺で動かしにくくなった顔を、少しでも動くようにしたい!」

そう考えて、EMS美顔器を使っている方はいないでしょうか?

一見すると、顔が動きにくいのであれば、電気で筋肉を動かして鍛えたら良さそうに思えます。

筋トレと同じ発想ですね。

しかし、顔面神経麻痺においては「動かない筋肉を電気で刺激して鍛える」という考え方には注意が必要です。

以前、来院された患者さんから、「麻痺を治そうと思ってEMS美顔器を使っていました」

というお話を伺ったことがありました。

結論を先にお伝えすると、当院では顔面神経麻痺の改善を目的として、自己判断でEMS美顔器を使用することはおすすめしていません。

そのときにも、同じ内容をXで発信しました。

この投稿では、

「EMS(電気刺激)の使用は病的共同運動を引き起こしたり、こわばりを強めてしまうリスクがあります」

と書きました。

現在も、日本顔面神経学会では顔面神経麻痺に対する低周波治療について、病的共同運動や拘縮を助長する可能性があるとして「受けるべきでない」としています。


では、なぜ「顔の筋肉への電気刺激」に注意が必要なのでしょうか?

その理由を理解するには、顔面神経麻痺の後遺症は単なる「筋力低下」ではないことを知る必要があります。

顔面神経麻痺は「筋肉が弱っただけ」ではない

顔面神経は「目を閉じる」「口角を上げる」「口をすぼめる」など、さまざまな表情を作るための指令を筋肉へ届けている神経です。


顔面神経がダメージを受けると、その指令が筋肉までうまく届かなくなって顔を動かしにくくなります。


これが顔面神経麻痺の状態です。


その後、ダメージを受けた神経は時間をかけて回復していきます。


ところが、ダメージが強かった場合には、神経が回復していく過程で本来とは異なる筋肉にも神経の指令が伝わってしまうことがあります。


顔面神経を顔の筋肉に指令を届ける「電線」のようなものだとイメージしてみてください。


本来は「目を閉じるための電線」「口を動かすための電線」が、それぞれ決まった場所・筋肉につながっています。


しかし、意図せずに一部の配線が枝分かれして、本来とは異なる場所にもつながってしまうことがあるのです。

すると、「口を動かす」という指令の一部が目の周りにも伝わり、口を動かすと同時に目まで閉じてしまうといったことが起こります。

「口を動かすと目が閉じる」
「食事をすると目が細くなる」
「笑うと患側の目がギュッと縮む」
「目を閉じると口元まで動いてしまう」

といった感じです。


これが後遺症である「病的共同運動」と呼ばれる状態です。


ここまで読むことで、顔面神経麻痺の後遺症が起きるのは「筋力が足りない」ことだけが問題なのではない、となんとなくイメージできたのではないでしょうか。


神経の回復が進んで、動くようになってきたからこそ、意図しない筋肉まで一緒に動いてしまう。


ここが、一般的な筋力低下と顔面神経麻痺の後遺症の大きな違いになります。

「動かないなら鍛えればいい」が当てはまらないことがあります

たとえば腕や脚の筋力が落ちた場合には、筋トレして取り戻そうとしたりしますよね。


その感覚で考えると、


「麻痺した表情筋も、たくさん動かした方がいい」

「自分で動かせないなら、EMSで動かせばいい」


と思うのは不思議ではありません。


しかし、顔の表情筋は体の他の場所とは違います。

小さな筋肉が密集しているため、目的とする筋肉だけを動かしたり、電気で刺激することが難しいのです。

EMS美顔器も同じなの?

ここは少し慎重に考える必要があるかと思います。

EMSと低周波治療は、厳密には同じものでない、というのが理由です。

  • EMSは、電気刺激によって筋肉を収縮させることを主な目的とするもの。

  • 低周波治療は、低い周波数の電気刺激を利用する治療の総称で、筋肉を収縮させるほか、痛みの緩和などを目的として使用されることもあります。

つまり、どちらも電気刺激を利用する点では共通していますが、目的や刺激方法まで同じとは限りません。


そのため、日本顔面神経学会が注意を促している「低周波治療」と、市販されているすべてのEMS美顔器を、まったく同じものとして扱うことはできない、というのが正確な理解です。


また、顔面神経麻痺の患者さんが家庭用EMS美顔器を使用した場合に、病的共同運動がどの程度増えるのかを直接検証した十分な研究は、現時点では確認することができません。

したがって「EMS美顔器を使えば必ず後遺症が悪化する」とまで断定することはできません。

ですが「顔面神経麻痺にEMS美顔器を使用しても安全である」と確認されているわけでもないのです。


それを踏まえつつ、顔面神経麻痺を理解すると、

少なくとも、「麻痺を改善するための自己流のリハビリとして、EMS美顔器で表情筋を強制的に収縮させることを積極的におすすめできる根拠は、現時点ではない」が結論になります。

「良くしたい」と思っているからこそ、自己流で頑張りすぎないでほしい

2024年にXへ投稿したとき、最後に、

「治そうとがんばったことが裏目に出るなんて切ないですよね」


と書きました。

今回、このコラムで一番お伝えしたいことも、やはりこういうことです。


EMS美顔器を使う方も、表情筋を何度も動かしてトレーニングする方も「少しでも良くしたい!」と思って行っているはずです。


だからこそ、リスクは避けていただきたいですし、顔面神経麻痺には一般的な筋力トレーニングとは異なる理解が必要であることをもっと広く知っていただきたいと考えています。


「良くしたい」と頑張っている方にこそ、顔面神経麻痺について正しい知識を知っていただき、当院が安心して回復に向き合う場所としてお役に立てれば幸いです。

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参考資料
日本顔面神経学会『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版 第2版』
日本顔面神経学会「顔面神経麻痺Q&A」
Eberly HW, et al. Does Electrical Stimulation Therapy Influence Synkinesis in Facial Paralysis? A Systematic Review. OTO Open. 2026;10(2):e70231.

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